「先生が"ガイドラインでは"とおっしゃっていたけれど、それって何のこと?」
2025年、日本の骨粗鬆症治療の指針が10年ぶりに改訂されました。日本骨粗鬆症学会と日本骨代謝学会の専門医が最新の研究をまとめたもので、全国の医師が治療の参考にしている教科書のようなものです。
2025年に改訂された骨粗鬆症ガイドラインのポイントを、専門用語なしでやさしく解説。最新エビデンスを患者目線で読み解きます。
「先生が"ガイドラインでは"とおっしゃっていたけれど、それって何のこと?」
2025年、日本の骨粗鬆症治療の指針が10年ぶりに改訂されました。日本骨粗鬆症学会と日本骨代謝学会の専門医が最新の研究をまとめたもので、全国の医師が治療の参考にしている教科書のようなものです。
ガイドラインは、何千もの研究を専門家がまとめた治療の道しるべです。
日本中の骨粗鬆症の専門医が集まり、この治療法にはどれくらい証拠があるかを一つひとつ評価して、42の質問(クリニカルクエスチョン)に答える形でまとめています。それぞれの質問には、専門医の合意率(どれくらいの先生が賛成したか)とエビデンスの強さ(研究の信頼度)が記されています。

あなたの主治医も、治療方針を考えるときにこの地図を参考にしています。
前回の2015年版から10年間で、骨粗鬆症の治療は大きく進歩しました。主な変更点は次のとおりです。
ガイドラインは根拠にもとづいた選択肢を示すもので、答えを一つに決めるものではありません。最終的な治療方針は、あなたの状態を知る主治医と一緒に決めます。
ガイドラインでは、お薬による治療を始める基準を図(フローチャート)にまとめています。考え方をかんたんに説明します。
1. 脆弱性骨折(もろさによる骨折)がある場合
大腿骨近位部骨折(足のつけ根)や脊椎骨折(背骨の圧迫骨折)を経験された方は、骨密度に関わらず治療の対象になると考えられています。一度骨折した方は、次の骨折を防ぐことがいちばんの目標になります。
2. 骨密度のTスコアが-2.5以下の場合
骨密度検査(DEXA検査)の結果で、Tスコア(若い人と比較した骨密度の値)が-2.5以下の場合、骨粗鬆症と診断され、治療が検討されます。
3. その他のリスクが重なる場合
骨密度が-2.5まで低くなくても、以下のようなリスクが重なる場合に治療が検討されることがあります。

自分は治療が必要かなと思われたら、リスクチェックや骨密度検査(DEXA)ガイドもあわせてご覧ください。いちばん確かなのは、主治医に相談することです。
ガイドラインでは、骨の状態と骨折リスクの高さを見てお薬を選ぶ考え方が示されています。
骨粗鬆症には、大きく分けて2つのタイプがあると考えられています。
骨が壊されやすいタイプ(骨吸収優位型) 骨が壊されるスピードが速くなっている状態です。この場合は、骨が壊されるのを防ぐお薬(骨吸収抑制薬)が選ばれやすいとされています。
骨がつくられにくいタイプ(骨形成低下型) 新しい骨をつくる力が弱くなっている状態です。この場合は、骨をつくる力を高めるお薬(骨形成促進薬)が選ばれやすいとされています。

さらに、骨折リスクの高さによってもお薬の選び方が変わります。
お薬の種類や特徴については、治療の全体像で詳しくご紹介しています。
お薬選びは、症状、骨密度、骨折歴、ほかのご病気、生活スタイルなどを合わせて考える総合判断です。ガイドラインは選択肢を示しますが、あなたに合った治療を選ぶのは主治医です。
ガイドラインの中心にあるのが、42のクリニカルクエスチョン(CQ)です。「このお薬は骨密度を上げるか?」「骨折を予防できるか?」といった質問に、専門家が証拠を集めて答えています。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| エビデンスA | 質の高い研究で効果が確認されている |
| エビデンスB | 比較的信頼できる研究で効果が示されている |
| エビデンスC | 限られた研究だが、効果を示す報告がある |
| エビデンスD | 十分な研究がまだ少ない |
ガイドラインでエビデンスの評価が高いお薬をまとめました。
| お薬の種類 | 骨密度の改善 | 骨折の予防 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| アレンドロネート(ビスフォスフォネート) | A | A | 最も長い使用実績のあるお薬のひとつ |
| リセドロネート(ビスフォスフォネート) | A | A | 飲み薬として広く処方されています |
| ゾレドロン酸(年1回の点滴) | A | A | 年に1回の通院で済むのが特徴です |
| デノスマブ(プラリア) | A | A | 6か月に1回の注射。詳しくはこちら |
| テリパラチド(骨形成促進薬) | A | A | 骨をつくる力を高めるお薬。詳しくはこちら |
| アバロパラチド | A | A | 新しい骨形成促進薬 |
| ロモソズマブ(イベニティ) | A | A | 骨をつくりながら守る、二重の作用 |
| 女性ホルモン補充療法 | A | A | 閉経後早期の方に検討されることがあります |
表のお薬は、どれも骨密度や骨折についての研究の裏付けがあるお薬です。推奨の強さや専門医の合意率はお薬や骨折の部位ごとに異なるため、詳しくはガイドライン本文をご確認ください。
※この表はエビデンスAの評価を受けた主なお薬です。ほかにもSERM(サーム:選択的エストロゲン受容体モジュレーター)やエルデカルシトール(活性型ビタミンD3)など、患者さんの状態に応じて処方されるお薬があります。エビデンスの等級が違っても、効果がないということではなく、それぞれに適した使いどころがあります。
ガイドラインはお薬だけでなく、日常の生活習慣についても評価しています。
2025年版ガイドラインで特に注目されているのが、お薬を計画的に使い分ける考え方と、数値目標を持って治療する考え方です。
治療の全体像でも触れたとおり、ガイドラインではお薬を順番に使い分ける「逐次療法」が推奨されています。
ステップ1:まず骨を「建てる」 骨密度が大きく低い方や骨折リスクの高い方は、骨をつくる力を高めるお薬(テリパラチド、アバロパラチド、ロモソズマブなど)から始めることがあります。
ステップ2:次に骨を「守る」 建てた骨を守るために、骨吸収抑制薬(ビスフォスフォネートやデノスマブなど)に切り替えます。
ガイドラインでは、お薬を替える順番によって効果が異なることも示されています。
建ててから守る、の順番がよいと考えられています。
もうひとつの新しい考え方が、目標を決めて治療する方法です。
これまでの治療は、お薬を続けて骨密度が下がらなければよい、という考え方でした。2025年版では、Tスコアを-2.5より上まで改善することが治療目標のひとつとして提案されています。

数値目標があると、治療の進み具合が見えるようになります。定期的な骨密度検査(DEXA検査)で骨密度の変化を追いながら、あとどのくらいかを主治医と一緒に確認できるので、続ける励みにもなります。
ガイドラインでは、お薬の「お休み」(休薬)についても述べられています。
休薬するかどうかは、必ず主治医の判断に従ってください。
ガイドラインには、治療の継続率についてのデータも載っています。
日本全国の診療報酬明細書(レセプト)のデータでは、骨粗鬆症の治療を始めた方のうち、1年後も治療を続けている方は約57%、2年後には約46%にとどまっていました。
自覚症状がないため、お薬を飲んでいる実感が得にくいことが一因と考えられています。
ガイドラインでは、治療を続けやすくする工夫として次のことが示されています。
骨粗鬆症は自覚症状がなく、治療の効果も体では感じにくいので、定期検査の数字で確かめていきましょう。
ガイドラインでは、お薬の副作用など主な注意点について、最新の見解をまとめています。
ビスフォスフォネート系の飲み薬は、食道や胃への刺激が起こることがあります。正しい飲み方(起床後すぐ、コップ1杯の水で、服用後30分は横にならない)を守ることで、多くの場合は問題なく使用できます。飲み方の詳細についてはお薬と食事の関係もご参照ください。
腎臓の機能が低下している方は、一部のお薬(とくにビスフォスフォネートやデノスマブ)が使えない、または用量の調整が必要なことがあります。主治医が血液検査の結果をもとに判断しますので、腎臓の持病がある方は必ずお伝えください。
ビスフォスフォネートやデノスマブを使用中に歯科治療(とくに抜歯)を受ける場合、まれに顎の骨に問題が起きることが報告されています。ただし、2023年の学会ポジションペーパーでは、抜歯の際にお薬を休む必要は原則としてない、との見解が示されています。
歯科治療を受ける際は、骨粗鬆症のお薬を使っていることを歯科医師にお伝えください。
ロモソズマブ(イベニティ)は、過去1年以内に脳卒中や心筋梗塞を起こされた方には慎重に使うとされています。主治医がお薬を選ぶ際に、心臓や血管の状態も考慮します。
デノスマブの記事でも詳しくお伝えしているとおり、デノスマブを自己判断で中断すると、骨密度が急激に低下し、骨折リスクが高まる可能性があります。中断や変更は、必ず主治医と相談のうえで行ってください。
副作用の情報は、お薬を正しく使うためのものです。不安なことがあれば、遠慮なく主治医に相談してください。
ガイドラインは、専門家がつくった地図です。ただ、地図を持っているだけでは目的地にはたどり着けません。あなたの体の状態を知り、日々の変化を見ている主治医がナビゲーターの役をします。

42の質問すべてについて日本中の専門医が合意してまとめた指針をもとに、主治医はあなたの治療プランを考えています。
🩺 次の受診で聞いてみたいこと
- 私の骨の状態は「壊されやすいタイプ」「つくりにくいタイプ」のどちらですか?
- 今の治療の目標値はどのくらいですか?
- 次のお薬の切り替えはいつ頃になりそうですか?
この質問リストをスマートフォンのスクリーンショットに保存するか、お薬手帳に書き写して受診にお持ちください。
Q. ガイドラインの治療と、主治医が実際に行う治療が違うことはありますか?
はい、あります。ガイドラインが示すのは標準的な考え方で、患者さん一人ひとりの状態や背景に合わせて主治医が判断を調整するのは普通のことです。
Q. 42のCQの中で、「推奨しない」という答えのものもあるのですか?
はい。たとえば、カルシトニンというお薬は骨密度の改善についても骨折予防についても「推奨しない」と評価されています。また、ビタミンK2は骨折予防については十分な証拠がないとされています。ただし、納豆に含まれるビタミンK2は食品としての骨への良い影響が研究されています。
Q. 新しいお薬ほど効果が高いのですか?
必ずしもそうとは限りません。たとえば、アレンドロネートやリセドロネートは20年以上の使用実績があり、エビデンスA評価を受けています。新しいお薬で選択肢は増えましたが、古いお薬が劣るわけではありません。主治医が患者さんの状態に合わせて、最適なお薬を選びます。
Q. このガイドラインは日本独自のものですか?
日本骨粗鬆症学会と日本骨代謝学会が、日本人のデータを重視して作成したものです。国際的なガイドラインとの整合性も考慮されていますが、FRAX®の骨折リスク計算に日本版があるなど、日本人の骨に合わせた基準になっている点が特徴です。
本記事の内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、特定の診断・治療を推奨するものではありません。骨の健康について気になることがあれば、主治医にご相談ください。
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医療監修
加藤裕幸(整形外科医・日本整形外科学会専門医)
東海大学医学部付属病院/湘陽かしわ台病院
最終更新:2026年10月17日
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